サピエンスの揺り籠 第九回「世界帝国と普遍宗教」 ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』より
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 サピエンスの世界を統一、グローバル化していった最強の秩序は「貨幣」でした。あと二つ、これに匹敵する秩序として挙げられるものがあります。「帝国」と「宗教」です。  帝国と言えば、映画や小説の中ではたいてい悪役を演じ、多くの国々や民族を強力な軍事力によって侵略していく存在として、否定的に扱われています。しかし、文明化された社会で暮らすほとんどの人々は、何らかの帝国によって統一された文化を継承することで、そんな映画や小説を楽しんでいるのです。古代のヌマンティア人はローマ帝国の支配と戦って滅び、後にスペイン民族の精神的支柱となりましたが、彼らを讃えるスペインの言語と文化はローマ帝国のそれを継承するものでした。世界の大半は、何らかの帝国に侵略された悲劇を経験すると同時に、その帝国の文化を継承しているのです。  最初の帝国アッカドは周辺の諸民族を支配し、皇帝サルゴンはメソポタミアの一角を統治したにすぎないものの、全世界の統一者を自任していました。その後のアッシリアや新バビロニアの皇帝たちも同様に諸民族を統一し、無限の拡大を志向しますが、ペルシア帝国のキュロスなどは「お前たちを征服するのはお前たちのため」という明確な信念を持っていました。この信念はマケドニアやローマ、イスラムやインド、中国、アステカ、そして後のソヴィエトやアメリカにも共有されていました。帝国は、分断されていた世界に思想・制度・習慣・規範の統一をもたらし、それによって効率的な支配をしつつ、流血の正当化をしていったのです。  宗教も、そんな諸帝国によって広まり、世界を統一する秩序の一つとなりました。マウリヤ朝は仏教を、ローマ帝国はキリスト教を、漢王朝は儒教を、アラブはイスラム教を、イギリスは自由主義を、ソヴィエトは共産主義を、アメリカは民主主義や人権を広め、サピエンスの社会秩序に超人間的な根拠を与えていったのです。  狩猟採集生活の頃は森羅万象や死者の霊を他者として尊重するアニミズムが信じられていましたが、農耕の開始とともに人間に特別な地位を与える神々への信仰、多神教が生まれます。そして、その中から善悪二元論のゾロアスター教やマニ教、古代エジプトのアテン神信仰やユダヤ教に始まる一神教のキリスト教とイスラム教、自然の法則を信奉するジャイナ教や仏教、儒教や道教、ストア主義やエピクロス主義、自由主義や社会主義や人権など、布教される宗教が登場します。  これにより世界は、普遍的秩序という虚構を共有できるようになったのでした。
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Published 08/14/23
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Published 08/14/23
Published 08/14/23