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この時期にもなると、17時を回った頃に日はとっぷりと暮れる。それに追い打ちをかけるように、北陸特有の低く垂れ込める雲たちが月明かりをみごとに遮り、辺りは人工的な灯りがないと闇であった。片倉は古田と別れた後、一路アサフスに向かい、店の前にあるコンビニエンスストアに陣取ってその様子を伺っていた。月曜のアサフスは休みだ。そのため店のシャッターは閉められている。来客らしい人の行き交いはなかった。
片倉は携帯電話を見た。古田からの連絡はまだ無かった。彼は目を瞑って事件の情報を整理することとした。
矢先、運転席側の窓をノックする音が聞こえた。
「あん?」
そこには十河の姿があった。片倉は外で身をすくめる彼を助手席に座らせた。
「マル暴が何の用や。」
「いやぁ本部長からの命令でしてね。」
「本部長?」
「ええ。片倉課長の代わりに赤松を見張れって言われまして。」
「は?」
「本日18時をもって捜査本部の指揮は朝倉本部長が取ることになったんですよ。ほんで、ちょっとフライングでここに派遣されました。」
「何?察庁は?」
「撤収ですわ。」
「松永が?」
「いえ、松永理事官は引き続き朝倉本部長の下で捜査します。他の連中は全員撤収です。」
「なんじゃそりゃ。」
「ワシもようわからんですわ。」
片倉は自分の頭を乱雑に掻き乱した。
「なんで松永は残るんや。」
「言うたでしょ。わかりません。」
「何で本部長は俺がここで赤松を見張っとるってわかったんや。」
「知らんですわ。課長から本部長に聞いてくださいよ。」
片倉には古田と合流するように指示が出ているらしい。古田には岡田が交代要員として派遣されているようだ。片倉と古田の捜査は察庁組が撤収することで極秘扱いを解除されるようだが、そのまま二人は継続して捜査するようにとの朝倉からのお達しだ。応援が必要になれば直接朝倉まで連絡せよとのことである。
「松永は一体何をしとるんや。指揮権が本部長に移ってしまったら、あいつには何もすることがないだろう。」
「さぁ…ワシには上の考えはさっぱりわかりません。あのお方はあのお方でやることがあるんでしょう。」
「あいつ…一体何ねんて…。」
片倉のこの言葉には十河は笑みを浮かべるだけだった。
「さぁ、課長。すぐに古田課長補佐と合流して下さい。ここはワシに任せてください。」
十河はこう言って車を降りた。そしてそのドアを閉めようとしたところでこう言った。
「あと少しですよ。」
「は?」
「今日一日が正念場です。課長。詰めをよろしくお願いします。」
「今日一日?」
「ええ。」
「なに?お前ひょっとして何か知っとるんか。」
十河はニヤリと笑った。そのとき車内の無線から松永の声が聞こえた。
「捜査本部より関係各所。本日ヒトハチマルマル(18時)をもって熨子山連続殺人事件捜査本部の本部長は朝倉警視長が担う。本件捜査員は今後朝倉本部長の指示に従うように。以上。」
「今後、捜査の指揮を執る朝倉だ。検問体制維持。本件捜査員は全員捜査本部に集合。ヒトキュウマルマル(19時)より捜査会議を行う。以上。」
「俺もか?」
無線を聞いた片倉は外にいる十河に自分の顔を指さして呟いた。左耳にはめたイ