74,12月21日 月曜日 17時40分 金沢銀行金沢駅前支店前
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74.mp3 駅前支店の前にあるホテルの喫茶店に陣取ってかれこれ二時間が経過する。古田がここから観察したところ、佐竹らしい男は一時間ほど前に駅前支店に帰ってきていた。それ以降、彼は店から出ていない。古田はこれで何杯目かわからない珈琲を口につけて手元のメモ帳をパラパラとめくり出した。さすがに珈琲が胃を痛めつけている。古田は自分の腹をさすった。 「古田課長補佐。」 古田は声のする方を向いた。そこには背広を着た四十代の男が立っていた。 「お前が岡田か?」 「はい。」 岡田はこう言ってそのまま古田と向かい合うように椅子に座って、テーブルに古田の車の鍵を差し出した。 「これどうぞ。車は裏の駐車場に停めてあります。」 「すまん。無理言ったな。」 「古田課長補佐は片倉課長と合流し、捜査を継続してください。」 「なんやって?」 「課長と捜査の詰めをお願いします。」 古田は頭を掻いた。 「朝倉本部長からの命令か。」 「ええ。」 「松永は何て?」 「理事官ですか?」 「ほうやわいや。あいつがすんなり指揮権を渡すわけねぇやろ。」 岡田は苦笑いした。 「やれやれ…古田さんには何も隠せませんな。」 「あったりめぇやわ。っちゅうか何ねんてヒトハチマルマル(18時)をもって指揮権移譲って。無線で聞いたぞ。」 「まぁ私も詳しいことはよく分からんのですよ。ただね、あなたには片倉さんととにかく詰めをやって欲しいそうなんです。ヒトハチマルマルをもって朝倉本部長に指揮権が移譲されるんで、それからはあなた方の捜査は、極秘扱いでなくなりますがそれはそれでほかの捜査員にはわからんように継続して欲しいんですよ。」 古田は頭を掻いた。 「捜査は佳境っちゅうことか。」 「ええ。あとは課長補佐と課長とでホンボシを検挙してください。」 「ホンボシ?」 「はい。」 「一色を?」 「誰がホシかは課長補佐がよくご存知でしょう。」 「なんや…。まさか本部長も松永もひょっとしてグルか?」 岡田は口元を緩めるだけで彼の問いかけには返事をしなかった。 「いいですか。リミットは明日です。」 「具体的に。」 「ロクマルマル。」 古田は自分の腕時計に目を落とした。時刻は17時58分である。 「あと10時間か。」 「できますか。」 「…県境の検問体制は維持のままやな。」 「はい。」 「もしも村上が越境しそうになったら止めてくれ。その場で確保や。」 「了解。」 「しかし時間がねぇな。えらい急転直下な展開やな。」 「なんかいろいろと事情があるようですよ。」 この時、左耳に装着したイヤホンから無線の音声が入ってきた。捜査本部の朝倉からである。 「片倉。トシさん。聞こえるか。朝倉だ。」 「こちら片倉聞こえます。」 「こちら古田聞こえます。」 古田と向かい合って座っている岡田も無線の対象なのか、彼は左耳に装着したイヤホンを指で押さえ、険しい目つきをして古田を見た。古田は岡田に向かって頷いた。 「本多慶喜が金沢銀行の本店で死んだ。首吊りのようだ。」 古田は絶句した。無線の向こう側の片倉も古田と同様なのだろう、しばしの間無言となった。 「いま捜査員を金沢銀行本店に向かわせている。これは報告だ。片倉課長とトシさんは引き続き捜査
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81.2.mp3 現場に一人残された村上は震える手で井上の顔面めがけてハンマーを振り下ろした。何度も。彼の身につけている白いシャツにおびただしい量の血液が付着した。 その後、塩島の携帯で警察に通報した村上はひとまず山頂を目指した。山頂から麓まで一気に駆け下りることができる場所ががあることを村上は高校時代の鬼ごっこで知っていた。しかしその山頂には間宮と桐本がいた。自分の姿を目撃され万事休すと思った時だ。気がつくと目の前に二人が倒れていた。おそらく自分がやったのだろう。無我夢中だったためなのか全く記憶にない。村上はこれも一色の犯行とするため、2人の顔面を破壊したのだった。 鍋島と村上は2...
Published 08/26/20
80.2.1.mp3 静寂の中、銃声が鳴り響いた。 目の前が真っ暗になった。 撃たれた。 俺は村上に撃たれた。 撃たれた? 痛くない。 そうか脳をやられたか。 いや、ならばこんなに頭が働かないはずだ。 眩しい。 なんだこの光は。 そうか俺は死ぬのか。 寒い。 風が寒い。 地面も冷たい。 地面? なんで地面が冷たいってわかったんだ。 手が動く。 痛くない。 まさか。 佐竹は目を開いた。 彼は無意識のうちに目を瞑って地面に倒れこんでいたようだ。彼は即座に身を起こした。すると村上の姿が目に飛び込んできた。彼はその場にうずくまって自分の右腕を抑えていた。...
Published 08/19/20