Description
当田舎寺ではお盆になると、出檀家さんを含めて約四百軒お参りします。
これを棚経というのですが、昔は各家でご先祖さまを迎えてお祀りするための棚をつくり、そこにご先祖さまが帰ってくるための乗り物として、茄子などの野菜と割り箸で動物を形づくりお祀りしたものです。 お盆にはこの前でお経をあげることから棚経といわれるようになりました。
8月10日から14日まで私ひとりでお参りしていたころには、一日に100軒、午前5時から夕方5時頃までかかる日もありました。
一軒あたりの読経時間はせいぜい7~8分ぐらいですが、とにかく数をこなしてお参りを済ませる必要があるため、ゆっくり悠長にロウソクやお線香をつけたりすることはできません。
玄関から挨拶しながら仏間まで一気に上がり込みます。
家に入っていいか、座敷に上がっていいか返事を待ってる暇はありません。幸いお参りする日は決まっていますので玄関は開いています。お家の人がいようがいまいが、とにかく上がって仏壇の前に座ります。座るやいなやリンを2回鳴らし、読経をはじめるのです。それからロウソクやお線香に火をつけお供えします。もちろんお経を拝みながらです。
お経が終われば、すでに準備してくれているお布施をいただいて、挨拶をしながら帰り、次の家に行きます。
もし、その当家の方がお留守の場合でも、お経はあげてから帰ります。そうしないと戻ってきてお参りしなおすというようなことになり、大変な時間のロスになるからです。
そんな日は朝食も昼食も抜きです。もちろん途中でトイレをしたくなることもありますが、できるだけ我慢をします。
それは衣を着てのトイレは不便だから。田舎とはいえ、坊主が法衣を着て畑で用を足している姿はあまり行儀のよいものではありません。その家のトイレを借りればいいように思いますが、昔のこと、古風なトイレなものですから、法衣を着ていることを考えるとなかなか借りる勇気がでないのです。
この辺のことは檀家さんもよく知ってくれていて、あえてお茶をすすめるようなことはしないように気遣ってくれていました。
さて、お茶はいいのですが、夏真っ盛りのため暑さにだけは少し気を配ってほしいと思うのです。
しかし田舎の家のこと、エアコンが居間にあればいい方で、仏間にエアコンがあるところはほとんどありません。
うちわは置いてくれているところは多いのですが、坊主が自分で扇ぎながらお経を拝むのもだらけているようでできません。
たまには気のきいた奥さんがうちわで扇いでくれますが、読経があまりにも短時間のため、うちわを用意している間に終わっていることもたびたびです。
扇風機も置いてくれているところは多いのですが、さて当家の人がうしろで扇風機をつけたとたん、「ロウソクが消えたわ、扇風機あかんなあ」と、いってスイッチを切ってしまうのです。私は心の中で「ロウソクはわしが帰ってからいつでも立てられるから、扇風機つけといてえな」と、思うのです。
扇風機を止められると、あとはよけいに暑いのです。
お盆の棚経での暑さ対策、なんとかなりませんでしょうか?
合掌