意識と神経とアルゴリズム 第九回『他者と共感』デイビッド・イーグルマン「あなたの脳の話」より
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 現在のスマートフォンは、小さくなったコンピューターと言える性能を持っています。しかし、これがインターネットに接続していなかったら、私たちが重宝しているその能力のほとんどは消えてしまうでしょう。一方、世界中のスマートフォンが接続していないSNSというのは想像できるでしょうか。個々の端末が接続していない時、そこにはインターネットも存在していません。  人間も、個々の大脳等の神経ネットワークの働きだけでは、私たちの考える個としての人間の姿を説明できません。私たちの存在の半分は、他者によって出来ているからです。また、私たちは、他者とつながり合った社会的動物として情報交換することで、巨大な集合的生命体として存在しているとも言えます。それは、個々の細胞の集合として生物が存在し、個々のニューロンのシナプス反応により全体としての神経系が生まれるのと同じことです。  ウサギ、電車、モンスター、飛行機、 子どものオモチャ、これらはみなアニメのキャラクターとして登場し、人間はこれらを自分たちと同等の存在とみなして感情移入することが出来ます。心理学者のフリッツ・ハイダーとマリアンヌ・ジンメルが1944年に作った短編映画は、こうした私達の共感能力の強さをよく示しています。映像には大きな三角形と小さな三角形と円が動き回る様子が映っているのですが、それが私達には、大きな三角形に襲われた小さな三角形と円が、協力して戦い、逃走に成功した物語として見えてしまうのです。  無機的な図形の運動にさえ社会的意図を読み取ろうとするこの能力は、まだ話すこともできない赤ん坊の頃から持っています。1歳未満の赤ちゃんに、アヒルをいじめるクマと、そのアヒルを助けるクマの人形劇を見せ、2匹のクマの人形を目の前に持っていくと、ほぼすべての子が親切なクマと遊ぼうとします。生存のためには敵と味方を素早く判断する能力が不可欠であるため、目の前のあらゆる事物がまず他者として現れる能力を、私達は生まれつき持っているのです。  人間は成長に従い、文脈によって複雑化していく社会関係に直面します。そこで脳は、互いの言葉と行動の他、その声の抑揚、顔の表情、身ぶり手ぶりから、他者の意図を読み取みとっていきます。しかし自閉症の人の場合、脳のこの共感機能が活発に働かないため、他者が表情や仕草に表す情報に反応できないようです。  他者の意図を読むためには、ミラーリングが必要です。これは、微細な顔面神経が相手の表情を無意識のうちにコピーして自分の顔でその表情を真似することです。これにより他者の気持ちを脳に再現することが出来るのです。  長年連れ添った夫婦の顔が似てくるのは、このミラーリングの積み重ねの結果だと言われています。
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Published 08/14/23
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