EP#97 議論と論議、習慣と慣習、運命と命運・・・漢字をひっくり返しても、成り立つ熟語があります。なんでこんなことが起きたのかを妄想してみました
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議論と論議、習慣と慣習、運命と命運、平和と和平、途中と中途、息子と子息、父親と親父、愛情と情愛のように、熟語の漢字をひっくり返しても成立することばがあります。これについて、調べてほしいという「つみたて兄さん」からのリクエストが届きました。今日は、これについて考えてみたいと思います。 これについての研究はあまりないようなのですが、酒井芳徳さんという方が「可逆語を探す」という本を出しているくらいです。大きく分けて3つに分類できるようです。 その1つは「逆にしても意味の変わらないもの」。 「途中」と「中途」は「道の半ば」とか「物事が進行している中頃」という意味で変わらないですよね。意味は同じだけれど用法は違います。同じ意味では途上ということばもあります。 「途中」は、広く、ものごとが始まってから終わるまでの間のどこかの点を指します。 「中途」は、物事の進行が、まだ中ほどであり、まだ終わっていないという点に意味の中心が置かれているんです。 2つ目が「意味を共有するか関連性の高いもの」。 「議論」と「論議」は、意味は非常に近くて関連性がありますよね。「議論」は「それぞれの考えを述べて論じあうこと」で、「論議」は「ある事柄について意見を出し合うこと。意見をたたかわせること」という意味です。 考えを述べたり意見を出し合ったりする部分は共通するんだけれど、「論議」の方が対立構造を持っているでしょ。この関係のことばが一番多いと思います。 「習慣」は「長い間続けていること」、「慣習」は「長い間続けていることが慣わしになっていること」です。「運命」は「天命によって定められた人の運」とか「将来」のこと。「命運」は「ある事柄の存続にかかわる重大な運命」のことです。 「平和」は「争いや心配事もなく穏やかであること」を言います。「和平」はそれに加えて「戦いをやめ、仲直りすること」を言います。「息子」は「自分の男のこども」を指し、「子息」は「人の息子」のことです。近い関係だけれど、わずかながらずれている感じです。 そして3つ目が「入水」と「水入」のように「全く意味が変わるもの」。 入水は太宰のように水中に身を投げることで、「水入」は、相撲で、相長く組み合ったまま勝負がつかないときに勝負を一時中断して、力士を土俵下で力水を与えてしばらく休ませること。読み方も違うけれどね。物干しと干物もこれと同じ。 こういうことばがなぜ生まれたのか、ということはわからないのですが、「権利」ということばには、権力とそれに伴う利益という意味があるんですね。 「荀子」という中国の戦国時代の思想書があって、そこに「権勢と利益」の意味で用いられるんです。荀子は性悪説を唱えた思想家なんです。権利に伴う利益が、しだいに利益を伴う権利になってきたんだと思うんです。それが「利権」というように、ひっくり返ったことばを生んで「権利」と使い分けられたんだと思います。 「利権」は特に、業者が政治家・役人などと結び公的機関の財政・経済活動に便乗して手に入れる巨額の利益を伴う権利のことをいいます。 「可逆語」は、元々のことばに収まらない意味が生まれて、その関係の強さが生み出したことばではないか、と妄想しているのです
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