Description
序)物語の舞台「ツロの地方」
・「ツロ」…ガリラヤ北西沿岸にある港町、ユダヤ人の土地ではないが、没落したユダヤ人たちが小さな農村を築き、ツロ富裕層と領主と小作人の関係にあった。飢饉になると農民たちから穀物は取り上げられた。パリサイ人たちにとっては「汚れた土地」だから人目を避けるのには好都合だった。
1)名もなき女性のプロフィール
・「ギリシア人で、シリア・フェニキアの生まれ」という表現から、それなりの社会的地位が伺える。イエスの噂も抱えている農民奴隷ユダヤ人から聞き出したに違いない。
・「悪霊」のことを「汚れた霊」とわざわざ表現しているのは、直前の物語とのつながりから。この娘の生育環境が「汚れ」でいっぱいだった。ということは、この女性に何らかの問題があったことが推察できる。
2)悔い改めと信仰を引き出すイエス
・「あなたは許さなくてはいけない」というのが原文で冒頭に出てくる。「最初に子どもたちを養うこと」はこの女性も行っているという前提が浮かび上がる。ツロによる搾取が背景にある。
・「子どもたち」「小犬」という差別はイエス様から始まっているのではなくツロの「高ぶり」から来る罪で、これをイエスは切り替えしている。
・「主(主人 or 主なる神)よ」とはマルコでここだけ。真のへりくだりが表現されている。自らを「食卓の下の小犬」とするのも同じ。
・けれども食卓からこぼれ落ちる「パン屑」に話題をもっていくのは、イエスの食卓のありあまる恵みを前提として信じるゆえ。
・この女性の応答に、イエスは「見ずに信じて行動する信仰」を求める。
・マルコは物語の最後の部分で「娘」ではなく「子ども」と書いている。ここにはイエス様にとって、みなが自分の愛する「子ども」であるということをマルコがくみ取っているゆえ。
3)「恵みを受ける柔らかい強さ」とは
・弟子たちやパリサイ人の頑なさと比較して、この女性の柔らかい強さが浮かび上がってくる。
・「柔らかさ」がなければ、自分の罪に向き合えない。けれども「強さ」が信仰の手を伸ばさせる。イエス様の言動の中に自分の願いを滑りこませる強かさがある。みじめに生きるために生まれてきたのではない!
結)あなたを神の国から遠ざけているものは何か?