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テロ対策本部に戻ってきた椎名を迎えたのは、百目鬼をはじめとするスタッフたちのただならぬ殺気だった。
「外の様子はどうやった?」
片倉が椎名に声をかける。
「酷いですね。こんな雨いつぶりでしょうか。」
「いつぶり?とは?」
(あっ…。)
「あぁ西日本豪雨ってのが2年前にあったっけ。あいつも酷かったけど、最近こんな感じの雨の降り方多ないけ?ある地点で局所的にドバーってバケツひっくり返したみたいに降って、んでしばらくしたらからーって晴れてさ。」
「…確かに。」
「あれか。気候変動ってやつか。」
「正直それについては自分は懐疑的です。」
「へぇ。こんな感じなんに?」
片倉は窓の外を見る。
「ええ。」
「まぁ気候変動なんて地球規模の危機よりも、いまは目下の危機の対応や。気候変動については今の危機対応が終わってから、ゆっくりと議論するとしようか。」
片倉が椎名と何気ないやりとりをすることで、対策本部の重苦しい空気感は多少軽くなったような気がした。
継続し続けるこの場の緊張感に世間話という一拍を入れることで、スタッフたちの注意が別の方に向いたのかもしれない。
「で、どう指示を出す。」
「ビショップに連絡をとります。」
「空閑か。」
「はい。彼もこの天気を見て焦っていることでしょう。」
「ほうやろうな。」
片倉が同意を示したそのとき、椎名の携帯に空閑からのメッセージが入ってきた。
「今電話できるか。」
片倉が頷くのを見て、椎名は彼に電話をかけた。
「おいキング。なんなんだこの天気。」
「何だって、見ての通りだ。大雨だ。」
「俺はこんなところでじっとしてる場合じゃないだろう。」
「確かにそうだが、この天気相手にお前に何がやれるってんだ。第一お前は公安にマークされてるんだ。ヤドルチェンコに任せろ。」
「キングはヤドルチェンコとは連絡をとったのか。」
ヤドルチェンコとは直接連絡を取る術はなく、空閑を介してのものだけと椎名は富樫に語っていた。しかしその空閑が開口一番ヤドルチェンコと連絡を取ったのかと椎名に聞いてきた。先ほどの最上の一件がある。百目鬼と片倉、岡田。顔色ひとつ変えず嘘を言う椎名に疑いを持っているような表情だった。
「ああ。」
「なんて言ってた?」
「問題ない。計画に変更はない。」
「本当か。」
「ただ。」
「ただ?」
「この天気が続いて洪水とかの災害に発展したら話は別だ。」
「クソが…。」
「ああクソだ。付近一帯が水についてしまうみたいな事態になれば中止だ。なにもできない。」
「くっ…。」
「水浸しになった無人の金沢駅で何ができるって言うんだ。」
「…わかっている。わかっているが…。」
「もしもそんな状況になるようだったら、運がなかったと思ってどこかに身を隠すんだ。」
「しかし俺の周りには既に公安が。」
「いる。いるがお前の力を使えばなんとかなるんじゃないか。」
(お前の力…)
百目鬼らはお互いの顔を見やった。
「今からでもそのホテルの脱出経路を確認しておけ。最悪の場合に備えるのも大事なことだ。」
「しかし…。」
「一か八かの賭けをすることが俺らに求められている訳じゃないだろう。お前の目的は何だ。」
「インチョウの奪還。」
「だろ。」
「わかった。いまはお前に言うとおりこのままお