3-173-2.mp3
民泊の床下から続く通路は20メートル先の廃屋に通じていた。そこには生活の形跡はなく、何者かが常駐していた様子もなかった。ただ鑑識によるとバイクのタイヤ痕のようなものが確認されており、ここに出た朝戸は、そのバイクに乗って何処かへ移動したものと考えられた。
「駄目です。目撃情報はありません。」
地取り捜査の報告を受けた岡田は肩を落とした。
「自衛隊も公安特課も踏み込んだら対象居ませんでしたって…。」
昨日、自衛隊が踏み込んだアパートは今回の民泊とは目と鼻の先だ。どちらも常時監視という力の置きようで対応していたのにこのざまだ。こいつは四方八方から無能のそしりを...
Published 03/29/24
3-173-1.mp3
時刻は正午となった。携帯を見た椎名は、力なく首を振った。
「梨の礫か…。」
「こうなったからには、朝戸は捨てます。朝戸は発見次第排除お願いします。」
百目鬼に椎名が応えた。
「朝戸の合図を持って事が始まるんだろう。」
「私の統制下で事を起こす分には、それは制御可能ですが、事態はそうではありません。なので危険は排除しましょう。」
百目鬼は隣に居た片倉と目を合わせてひと言。
「わかった。」
これに椎名は頷いた。
「逮捕とか考えなくて良いです。その場で排除してください。」
「って言ってもな、俺らはそんなに簡単に民間人を殺傷できんのだよ。」
「なにも殺せと...
Published 03/29/24
3-172-2.mp3
腕時計に目を落としていた男が顔を上げると、前に居た男が頷いた。
ガラガラガラっと民泊の玄関扉を開くと、どこからともなく二人の背後から6名程度のアウトドアウェア姿の男らが現れ、物音ひとつ立てずに宿の中に全員流れ込むように入っていった。
「ごめんくださーい。」
「はーい。」
しばらくして奥から宿の主人が現れた。主人は目の前に突然屈強な男らが大勢現れたことに、驚きのあまり腰を抜かした。
「こちらに朝戸さんって方、泊まってらっしゃるでしょ。」
「あ、あ…。」
声すら出せない主人の驚きようだ。
「どちらに居ますか?」
この質問に主人はなんとか首を振って応える。...
Published 03/08/24