Description
3-161-1.mp3
卯辰一郎の朝戸調査報告は第一報からちょうど6時間後の16時に行われた。
第一報で明らかになった人物、朝戸の妹殺害のもみ消しを図った疑いのある白銀篤についてである。
「ある日忽然と姿を消した?」
「はい。家族全員失踪。奴が済んでいた家は荒れ放題です。白銀の自宅の周辺住民曰く、近所付き合いがほとんど無い家庭だったようです。なので気がついたら家の草が生えっぱなしになって荒れていたと。」
「何か手がかりのようなものは。」
神谷の問いかけに卯辰一郎は首を振って応える。
「ヤサに踏み込ませたんですが、ただ散らかっているだけでめぼしい情報は何一つありませんでした。」
「くさいな。」
「はい。プロの仕業かと。」
「まさか朝戸が白銀を始末したとか?」
いやそんなはずなはい。朝戸が白銀を始末すればその復讐心は満たされる。彼のゲームはこれで終わりだ。神谷は自分の発言を即座に撤回しようとした。
「カシラ。実は自分もひょっとしてと思っていまして。その線。」
「え?」
一郎の言葉は神谷にとって意外だった。
「うん?どういうこと?」
「いや、白銀篤って名前は出てくるんでが、朝戸沙希をひき殺したと言われる白銀の息子ってのが、名前も顔写真もなにも出てこないんです。」
「そういやそうだな…。名前も顔写真も見ていない。」
「はい。おかしいと思いませんか。朝戸沙希に直接危害を与えたのは白銀息子です。その人物の情報が得られず、こちらに入ってくるのはオヤジのネタばっかり。そいでそのネタも不完全なものです。匂わすだけ匂わせて、肝心なネタが入ってこない。」
「まさか朝戸が嘘をついていると?」
「可能性は排除できません。」
「ただそうなると朝戸が最上にノビチョクを盛った動機が…。」
自分の顎をさすりながら考えていた神谷の手が止まった。
そして目の前のパソコンにノビチョク事件の記事を表示させた。
「東倉病院か…。」
「カシラはこの東倉病院に最上が入院していたのはご存じだったんですか。」
「いや知らなかった。というか引退した人間とは基本接点はない。」
「というとただのご隠居ですね。」
「そうだ。」
「しかしそんなサツに接点のないただのご隠居を殺害することに正直何の意味があるんでしょうか。奴らにとって。」
「いや、ただ最上は協力者だった可能性はある。」
「協力者…。」
神谷はそうかと言って立ち上がった。
「事件当時、最上と直接会っていた松永理事官は間もなく逮捕拘留された。事件の被疑者として。」
「なるほど…その松永理事官の協力者だったって訳ですか、最上は。」
「しかし誰が誰の協力者かってのは察庁の理事官クラスじゃないと把握していない。」
「となると察庁に朝戸らのモグラが居ると。」
「だろうな。そうでないと説明がつかん。」
携帯バイブ音
神谷の携帯が震えた。
画面に表示される名前を見て神谷は姿勢を正した。
「お疲れさまです。片倉さん。ちょうどこちらからも連絡しようとしていたんです。」
「うん?ヤドルチェンコの件か。」
「それもありますが、まぁ諸々です。」
「手短に頼む。」
神谷は野本経由の古田による朝戸調査依頼について端的に片倉に説明した。
「白銀篤か…。」
「はい。ご存じですか。」
「情報が無いわけじゃあない。」
「どん