Description
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「失礼します。」
スライドドア音
「あぁ京子か。」
身支度をする三波の姿があった。
「もういいんですか?」
「まぁ、正直良いか悪いかわかんない。主治医がいなくなっちまったからな。」
京子は返す言葉を失った。
「どこまで知ってる?」
三波の質問の真意を測りかねる京子はただ首を振って応えるだけだった。
「で俺から根掘り葉掘り聞き出してやろうってことでここに?」
「そんなところです。」
彼はため息をつく。
「残念だけど、今回ばかりはお前に話せることはない。」
「どうしてですか。」
「俺らのような民間人がしゃしゃり出るのは控えた方が良い。」
「自粛ですか。」
「まぁそんなところだ。」
「三波さんもそんなことを…。」
「俺も?」
「…はい。」
「なんだその言い方。何と一緒にしてる?」
京子はネットカフェ爆破事件を報じるメディアが、地元石川のメディアに留まっていることを三波に伝えた。
「私が調べたところ、警察からの要請で報道協定を結んだとかじゃないんです。各社が自主的に報道していない。」
「報道各社が自主規制か…。」
「はい。」
「どうせそんなことしてもSNSですぐに広まる。放っておけよ。既存メディアはやっぱりクソって事で、ウチみたいなネットメディアの信用性が高まるだけ。商売的にはいいんじゃん。」
「でもあり得ないと思います。」
身支度を終えた三波はベッドに腰をかけた。
「あり得ない?」
「だってそういう事件をお茶の間に伝えるのが報道の仕事じゃないですか。」
「あの…京子…事件報道だけじゃないだろ。報道ってのは。何のために政治部とか経済部とか国際部とかあると思ってんだ。」
京子は口をつぐんだ。
「大きな組織には大きな組織なりのしきたりがあるの。それに俺らと違うんだよ、発信力も社会的影響も。」
「…。」
京子は面白く無さそうな顔つきだ。
それを横目に三波はやれやれといった風にペットボトルに口を付けた。
片倉京子は明日予定される金沢駅テロのネタは掴んでいない。これは三波が光定公信から直に聞き出した特大のネタだ。
このネタは公安特課である相馬と自分の中だけに止めた話。京子に知られることは絶対許されない。ましてやちゃんフリで報道するのは論外である。
テロの目的のひとつに大衆の不安につけ込んだ不当な要求がある。
大衆が不安になればなるほどテロの実行側にとっては要求を呑ませやすくなる。現在、全国各地でテロのような事件が発生している。ここに追い打ちをかけるように今回のネットカフェ爆破事件報道がなされたとしよう。その結果は言うまでも無い。大衆の不安を煽ることとなろう。
不安は不安を呼び込む。また同じようなことが起きる。今度はもっと重大な被害をもたらすと大衆が思い込んだら最後、恐慌状態となり制御が効かなくなる。これは治安当局が最も恐れるものだ。
そのため報道協定を結ぶというのは妥当な措置であると三波は思っていた。しかし京子調べによると、それはなされていないとのことだった。
ー報道協定を結んだとなると、どういった事件報道に協定を結んだのか、その対象くらいは身内にバレる。今次テロ事件に関してはそれすらも身内に漏らすことは許されない。だから自主規制の体をとってるだけだよ。
三波自身が報道協定