Description
3-164.mp3
「久しぶり。トシさん。」
取調室の中に入ってきたのは片倉だった。
それを目で追いながら古田が言った。
「なんや、なんでお前がここに居るんや。」
「いろいろあってな。」
「ちっ。」
古田は舌打ちして片倉から目をそらした。
「何け。」
「お前もあれか。」
「何?あれって。」
「おめぇもワシのこと厄介払いしとるんか。」
片倉はあきれ顔を見せた。
「まー厄介や。」
「あん?」
「厄介やわいや、んな直ぐ一歩歩いたらさっきのこと忘れるんやしな。」
「おいおめぇ人のこと呆け老人呼ばわりしやがって。」
「トシさん。俺だって受け入れるのに苦労しとれんて。」
「ふざけんなや!くそったれが!」
「待て待て!」
古田は立ち上がり部屋から出ようとする。しかしそれは片倉によって力ずくで押さえ込まれた。
「トシさんだけじゃねぇんげんて。」
「は?」
「石大病院通院者にトシさんのような症状でとる人間多数。」
「え…何やって…。」
「おそらくこれはすべて光定公信による人体実験の影響や。」
「人体実験?」
片倉の制止を振り切ろうとしていた古田だったが、ひとまず落ち着きを取り戻した。片倉の手を振り払って彼は席に着いた。
「悪い、俺もなんかイライラしてトシさん煽るようなこと言っちまった。」
「んと感じ悪いわ。」
「すまん。」
「…第2小早川研究所の件か。」
「何でそれを…。」
「ワシなりの捜査網に引っかかった。」
「恐れ入るわ…。」
ふうーっと息をついた古田は両手で頭を抱えた。
「なんでワシが…。」
「わからん。けど光定が自分のとこの患者を利用して鍋島能力の実験をしとったのは明らかや。」
「いや、待てま。わし光定に診てもらったことなんかないぞ。そもそもあいつ心療内科とか脳神経のほうやろう。」
「でも現にその症状が出とる。」
「…。」
「原因はひとまず置いとかんけ。とにかくトシさんには認知症状がでとる。こいつはトシさんと絡んだ連中がみな口をそろえて言っとるところから明らかや。」
古田はうなだれた。
「トシさん、俺はトシさんを責めとるわけじゃないんや。ファクトを抑えてからトシさんと一緒に動こうとしとるんや。そこんところだけは信じてくれ。」
「一緒に動く?」
「ああトシさんの長年の勘が必要や。」
「暇出したくせにか。」
「そうや。」
「ムシのいい話やな。」
「ほうや。ムシのいい話や。」
「断ると言ったら。」
「そんときはこの国が破滅への一歩を踏み出すことになる。」
「はぁ?」
「誇張じゃない。」
明日、金沢駅でテロが計画されている。それは朝戸に依るものだけでなく、ヤドルチェンコとウ・ダバが絡んだ大規模なものになるはずだ。一方それを潰すためにアルミヤプラボスディアというツヴァイスタン系の民間軍事会社が動いている。これは日本を舞台にしたツヴァイスタンの秘密警察オフラーナと軍の代理抗争としての様相を呈してきた。ここで金沢駅テロの首謀者である椎名賢明が警察に出頭。ヤドルチェンコ達をテロ直前に一斉検挙できるよう協力すると言ってきた。現在このテロ対策本部はその協力者椎名を司令塔として機能している。
片倉はこのテロ対策本部の現況をこう古田に説明した。
「オフラーナはウチら公安特課。アルミヤプラボスディアは自衛隊ってふうに線引きして