Description
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四畳半程度の部屋の真ん中にあるデスクでラップトップ型PCを向かい合うのは椎名賢明だ。インカムをつけた彼はビデオ会議ツールで外の捜査本部のスタッフとコミュニケーションをとっていた。
ドアをノックする音
「はい。」
資料ですと言って、男が紙の束を持ってきた。
椎名はそれをご苦労様ですと受け取った。
続けて彼は紙コップに入ったコーヒーを椎名の前に差し出した。
これには椎名は紙コップに目を落とし「ありがとうございます」とだけ言ってそれを受け取った。
男は頭をぺこりと下げ、椎名とはなんの会話もせずにそのままこの場から立ち去った。
「何や。コーヒー頼んでいたのか。」
片倉の声がイヤホンから聞こえた。
「はい。」
椎名がこう応えても片倉は何も言わなかった。
コーヒーをすする音
視線を部屋の隅に移す。そこにはこちらの様子を覗うカメラがあった。
「今のところ、チェス組の動きはどうや。」
「空閑はホテルで待機、朝戸は例の民泊にまだ滞在しています。」
片倉は岡田を見た。椎名の証言が現在公安特課が把握している現状と一致していたため、岡田は首を縦に振った。
「ヤドルチェンコはどうや。」
「彼の居場所は把握できませんが、ウ・ダバがそろそろ動く時間です。」
「ウ・ダバが動く?」
「はい。」
「何をする。」
「物資の補給です。」
「なんや物資って。」
「武器です。」
「どこで受け渡しする。」
「それはわかりません。」
「なんや…それもわからんのか…。」
「はい。」
「クソが…。」
片倉は歯がゆそうな声を出した。
「現段階で我々に出来ることはありません。奴らが準備万端、整うまではなにもできない。」
「居場所を特定しておけば即応できるやろうが。」
「こちらがあいつらの居場所を押さえるって事は、向こうにもこちらの出方を知られるって事になります。」
「そんなヘマ、マルトクはせん。」
「したらどうなりますか?」
「…俺らを信用せんって言うんか。」
「信用するかしないかの問題じゃありません。リスク回避です。」
不毛だ。このやりとりはなんの生産性もない。片倉は再び黙った。
「自衛隊との連携の方はどうなんですか。」
「調整中。」
「いつ結論が出ますか。」
「わからん。急がせとる。」
「見込みは。」
「それもわからん。」
それよりもお前が警察方に寝返ったことは、ツヴァイスタン本国にまだバレていないのかと片倉は尋ねた。
「おそらくまだかと。バレてたら既に私を消しに来ています。」
「消すって言っても、お前はまさに今、公安特課の一室で厳重に管理されている。さすがにそう易々と侵入されんよ。」
「自分が寝返ったとなれば、オフラーナはおそらく空閑と接触をするでしょう。しかしこの空閑がオフラーナと接触した様子もありません。先ほども言ったように、自分が寝返ったことを私の監視役が知ったとしても、保身を図る必要があります。そのため動けてないものと判断します。」
「しかしその状況はいつまでも続くものじゃない。」
「はい。ですが一日程度は稼げます。そのあたりを考慮した今回の作戦です。」
一体、何手先を読んでいるんだ。彼の計画は想像を遙かに超えてくる。神算鬼謀と言うがこれがそうなのか。ツヴァイスタンのオフラーナという組織にはこのような人材が