Description
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腕時計に目を落としていた男が顔を上げると、前に居た男が頷いた。
ガラガラガラっと民泊の玄関扉を開くと、どこからともなく二人の背後から6名程度のアウトドアウェア姿の男らが現れ、物音ひとつ立てずに宿の中に全員流れ込むように入っていった。
「ごめんくださーい。」
「はーい。」
しばらくして奥から宿の主人が現れた。主人は目の前に突然屈強な男らが大勢現れたことに、驚きのあまり腰を抜かした。
「こちらに朝戸さんって方、泊まってらっしゃるでしょ。」
「あ、あ…。」
声すら出せない主人の驚きようだ。
「どちらに居ますか?」
この質問に主人はなんとか首を振って応える。
「わからない?」
これには頷いて応えた。
「そんなはずはないんだよなぁ。」
ちょっと中調べさせてもらうよと言って、主人は猿ぐつわをされ、両手両足を縛られた。
「はじめるぞ。」
リーダー格の男が握った拳を広げると、全員が宿の中に散らばった。彼らは手に拳銃のようなものを持っていた。
ただの民泊だ。朝戸を探すと行っても、時間はかからない。リーダー格の男は主人を前にどっかと腰を下ろして、報告を待った。
先ず、一階の捜索をしていた者たちがこちらに戻ってきた。彼はリーダーに向かって首を振る。
「わかった。ここで待機せよ。」
「了解。」
それから間もなく二階の捜索をしていた者たちが戻ってきた。彼らも首を振った。
「何だって?」
どこかに隠れているのかもしれない。再度入念に調べろとリーダーは全員に指示を出した。
ふと横に転がっている主人の様子を見ると、どこか笑っているように見えた。
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「なに…居ない…。」
民泊からの報告を受けた一郎の声が神谷に届いた。
「その民泊からの脱出経路があるはずだ。虱潰しに調べろ。」
神谷と卯辰兄弟がビル屋上からエレベーターに乗って事務所に移動中の時だった。
エレベーターの扉が開く音
「朝戸が消えたのか。」
「はっ。例の拠点に外への脱出経路が用意されていたと想定されます。」
「敵も然る者。」
「いかにも。」
「脱出経路を抑えたら、その先も抑えねばならんな。」
「はい。」
「人手がウチらだけでは足りないか…。」
「隠密行動なら事足りますが、大がかりになると無理かと。」
「すぐに公安特課に指示を仰ぐ。一郎は脱出経路の調査と、その先を抑えてくれ。」
「はっ。」
「くれぐれも注意せよ。」
「了解。」
「カシラ。」
次郎が神谷を呼ぶ。
「なんだ。」
「これで連中が動きを早めると言うことはありませんか。」
「ないとは言えないな。」
「ヤドルチェンコの警戒を強めます。」
「ああ頼む。」
「あと比例してアルミヤプラボスディアが早期に動く可能性も見越して、部隊に早めの待機を命じます。」
「ああそうしてくれ。」
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「そうか…失敗か…。」
「はい。現在、脱出経路の探索をしています。しかしその脱出先の探索となると、現状の我々の人員では無理です。」
「わかった。先は公安特課で対応する。お前さんは早急にその脱出経路を特定してくれ。」
「了解。」
それでは仁熊会はアルミヤプラボスディア対応に全てのリソースを振り向けます。そ