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時刻は正午となった。携帯を見た椎名は、力なく首を振った。
「梨の礫か…。」
「こうなったからには、朝戸は捨てます。朝戸は発見次第排除お願いします。」
百目鬼に椎名が応えた。
「朝戸の合図を持って事が始まるんだろう。」
「私の統制下で事を起こす分には、それは制御可能ですが、事態はそうではありません。なので危険は排除しましょう。」
百目鬼は隣に居た片倉と目を合わせてひと言。
「わかった。」
これに椎名は頷いた。
「逮捕とか考えなくて良いです。その場で排除してください。」
「って言ってもな、俺らはそんなに簡単に民間人を殺傷できんのだよ。」
「なにも殺せと言っていません。朝戸を発見次第、片腕、片足を打ち抜いてください。物理的に何もできなくさせます。」
随分具体的な指示だな。そう呟いた百目鬼だったが、これに関しては椎名の言ったとおりに行動するよう現場に指示を出した。
「ん?どうした。」
ふと椎名を見ると彼はしきりに目をしばたたかせたり、擦ったりしていた。
「すいません。まつげか何かが入ったようです。トイレで顔洗ってきていいですか。」
「ああ。」
椎名は監視員と一緒に部屋から出て行った。
ドアを閉める音
「さてどうしたもんか。」
「どうしたもんでしょうね…。」
片倉が浮かない顔で百目鬼に応えた。
「まぁ作戦開始の合図を出せない状況さえ作ってしまえば、テロの筋書きを壊せるわけだから、あとは朝戸の排除に戦力を集中させれば良いんじゃないかと思えてきた。」
「でもそれだと上層部の言っている、関係者一斉検挙は難しくなるかと思います。SATも椎名案を採用したことですし、ここにきて作戦の変更はどうかと。」
これには百目鬼は口をへの字にして、一息ついた。
「お偉方のことは話半分でいいさ。事が起こっちまって、収拾不能になったらそれどころじゃない。それくらいはお偉方も分かってる。」
「しかし…。」
考えに考えた結果だと百目鬼は言った。
「とにかく失敗がこわいんだ。あいつらは。無謬性を求めるがあまり、ついついあれもこれもってどうでも良いものまで求めてしまう。結果どれも中途半端で失敗すんのにな。」
「役人根性ですか。」
「ああ。俺らもその役人なんだけど。」
「しかし、だからといって朝戸排除だけに専念しても、それで危険が完全に消えるわけではありません。テロは奴の合図で始まるって事になっていますが、仮に奴がこのままどこかに姿をくらましたところで、本当にテロは実行されないなんて考えられない。相応の人員がこれにかり出されているんです。」
「だろうな。そのままもし撤収となっても、それだけの人員が金沢駅周辺に18時時点で展開しているんだ。何かしらバレる。足が付く。絶対に。」
「はい。それに朝戸のように暴発する奴が出でもおかしくない。」
「だとすればこのまま朝戸の合図無しにテロを強行する可能性は捨てきれない。」
片倉は頷く。
「SATについては、このままの作戦でいく。」
「そうですね。」
「朝戸が消えた現在、椎名の統制は当てにならない。状況がエスカレートする可能性があるってわけか…。」
「どうするんですか。」
「上層部に事前に了承をもらっておく必要があるだろう。」
「何を?」
「椎名の言っていた奴だよ。」