Description
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「はぁはぁはぁ…。」
息を切らして部屋の隅に膝を抱え込んで座る朝戸がいた。
彼の視線の先には横たわる男の姿が二つ。いや三つ。
何れも血液によって畳を黒く染めている。
頭痛音
「ううっ!」
金槌のようなもので殴られたのではないかと思えるほどの衝撃が自分の頭部に走る。
頭を抱えて彼はその場に倒れた。
すると左肩をじゅわっとした液体の感触が走った。なんとも言えない不快な感覚だ。しかしその不快よりも頭痛の方が勝っていた。朝戸は横になった。
すると同じく横たわっている一人と至近距離で目が合った。
彼の方は息をしていない。
頭部を銃で撃ち抜かれている。ただただ部屋の床をうっすらと開いた目で見つめているだけだ。
「またやっちまった…。」
すぐ側に一丁の拳銃が無造作に置かれていた。
「もう、俺を殺そう…。」
朝戸はそれに手を伸ばした。
しっかりとした重さのあるのコンパクトタイプのグロックだ。
その銃口を彼は自分の口に咥えた。このまま引き金を引けば、腔内を貫通して脳を打ち抜き即死する。
朝戸は躊躇うことなく引き金を引いた。
カチン
銃弾は発射されなかった。
カチンと金属音が鳴るだけで、自分の口の中を鉄のようなニオイが覆うだけだった。
「んだよ…。」
拳銃を放り投げた。
「タマなしの銃なんか持ってんじゃねぇ!!」
「やる気あんのか!!このタマなし野郎ども!!!!」
横たわったまま朝戸は絶叫した。
横たわる髭面の男と目が合った。目が合うといっても、彼の方はすでに絶命しているわけだが。
「んだよ…なんでお前らはこうも簡単に死ねるんだ…。」
「なんで俺は、お前らみたいに死ねないんだ…。」
朝戸の視界がぼやけた。しずくのようなものが目から流れ落ちてこめかみをつたい床に落ちる。
左肩辺りに感じていた液体の感触とは明らかに違うものだ。
朝戸はそのままその場でうずくまって嗚咽した。
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「え?何?今の音。」
山頂へと続く遊歩道を歩いていた片倉京子は足を止めて振り返った。
振り返った先には先輩記者の三波がぜぇぜぇと息を切らしている。
「三波さん。いま変な音聞こえませんでした?」
「え?」
「ほらなんかパンパンって何かが破裂するような音。」
「んなもん聞こえたか?」
と言うか京子、お前ペース速すぎ。そういって三波はそこに座り込んでしまった。
「今向かってる、あの山小屋の方面から聞こえたような気がするんですが。」
三波の顔色が変わった。
「パンパンって破裂音?」
「はい。」
あいにく俺にはその音は聞こえていない。
ここは熨子山山頂へ続く遊歩道。目的地の山小屋へはあと半分の距離の場所で、少し下ったところに民家が何軒かある。そこの住人にも同じ音を聞かなかったか確認してこい。
「三波さんは?」
「ちょっと疲れたから俺はここで休んでる。」
「え?」
「えって何だよ。」
「ってかバテすぎでしょ。」
「何言ってんだよ。俺、病み上がりだよ。病み上がりの俺を引っ張り出しておいてさ、すこしは労りとかないの?」
京子は三波から聞かされていた。
金沢駅で三波はある男と接触した。
結論から言うとこの男は空閑という男であった。彼は光定公信より瞬間催眠の使い手になれるようにす