Description
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バイクのエンジンを切った京子はそれから飛び降りた。
山小屋の入り口付近の状況は先ほどと何の変わりもない。あるのは今乗ってきたオフロードバイクだけだ。
小屋の入り口の前に立った京子はそこから再び三波の名前を呼んだ。
「三波さん。」
返事がない。
自分の声量が小さかったかもしれない。しかし大きな声を出すのは憚られる雰囲気をこの場は持っていた。京子は恐る恐る入り口扉を開いた。
暗い。壁板から漏れる明かりが中を所々照らしているが、そのほとんどが見えない。京子は中に入るために一歩を踏み出した。
すると踏み出した右足先に何かが当たった。瞬間、京子は触れてはいけないものに接触している感覚に襲われた。何かが見えるわけではない。足先の感覚だけでそのような感じを受けたのだ。彼女は咄嗟に右足を引っ込めた。
「見るな。見るもんじゃない。」175
三波が言っていたこの言葉を思い出した京子は思わず目を瞑った。
「三波さん。大丈夫ですか。」
目を瞑ったまま発されたこの言葉にも反応はなかった。
相手を気遣うような言葉が京子の口から出たが、それは自分を奮い立たせるための方便に過ぎない。そのことを京子自身は理解していた。
「三波さん。」
言葉を発することで京子はなんとか踏みとどまった。
京子はようやく目を開いた。右足に当たった何かをその目で確認しようと。
男の手の甲が彼女の視界に映った。
途端に腰から下の力が抜けた。
彼女はその場に尻餅をついた。
声が出ない。
身体も言うことを利かない。
ただ彼女の目だけは機能していた。
彼女の目はそこにうつ伏せになるように倒れる三波の姿だけを映していた。
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「熨子駐在所より本部。」
「はい本部。」
無線には富樫が出た。
「現場にて片倉京子を保護。」
富樫と側に居る片倉は安堵の声を漏らしたが、続いて報告を受けて二人は戦慄することになる。
「三波は心肺停止の状態です。」
「なんやって…。」
「頭部を撃たれた跡があります。」
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数分前、駐在が現場に到着した。
そのとき京子は小屋の外で腰を抜かすように座りこみ、放心状態だった。とりあえず彼女の安全を確認した駐在は小屋の中に入ろうとした。そのとき京子がぼそりと呟く声が聞こえた。
「三波さんが…。」
足を止めた駐在が三波がどうしたんだと聞く。すると京子は泣き出した。
このとき駐在はマズい状況が発生していると理解した。彼は懐中電灯を手にして小屋の中に入った。
入った刹那、小屋内の惨状に彼は足がすくんだ。
入り口に頭を向けてうつ伏せになって倒れているひとりの男。彼の頭部は銃のようなもので撃ち抜かれている。それによってできたと思われる血液たまりもあった。
続いて小屋内の懐中電灯で照らすと、先ず先ほどの遺体と別の仰向けの遺体と思われる男が一体。続いて壁に寄りかかる男、小屋奥でうつ伏せで倒れる男と確認できた。
「お嬢さん!三波さんは!?」
京子は力なく、あなたの足下に倒れているその人ですというような事を言った。
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「それで現場の安全は確保できとるんか。」
富樫が駐在に呼びかける。
「安全