Description
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「ご遺族には私から連絡する。当面デスクは三波君のことは秘して、平静を装ってくれ。」
「…。」
加賀と正対する黒田はただひたすらに床を見つめて直立していた。前髪が黒田の顔を隠すため、加賀の目では彼がどういった表情をしているかは分からない。
「デスク。」
「…わかりました。」
社長室から出た黒田は二歩ほど歩いた。しかしどうも足下がおぼつかない。壁により掛かるとへなへなと自分の身を折りたたむようにそのままそこに座り込んでしまった。
「嘘だろ…。」
声にならない声を出す。自分にも聞こえない。
彼は天を仰いだ。
熱いものが目から頬、そして顎を伝う。
バイブ音
こんな時に何の電話だというのだ。携帯を手に取った黒田はそれを床にたたきつけてやろうと思った。しかし、画面に表示される名前を見て、顔を手で拭った彼は慌ててそれに出ることにした。
「京子…大丈夫か。」
「デスク…。」
「…社長から聞いた。お前、いまどこだ。」
「警察署にいます。」
「そうか…。」
「デスク、わたし、何もできなかった…。」
この京子の言葉に黒田は何の返事もできなかった。
「とにかく行かなきゃって思って、バイクで必死になって向かったんだけど…遅かった…。」
「京子…。」
「そこに沢山の死体があった…。」
「おい…。」
「三波さんはうつ伏せだった…。」
「おいやめろ。」
「頭から血を出して…。」
「やめろー!」
黒田は絶叫していた。この声に加賀は社長室から飛び出してきた。
「落ち着け京子。しっかりしろ!」
「だって…だって…。」
京子は話せる状況にない。黒田は思い切って彼女からの電話を切った。
「それでいい。」
加賀は黒田の肩にそっと手を当てた。
「今日はもう帰るんだ、デスク。君まで壊れたら、このちゃんフリは立ちゆかなくなる。」
「…。」
明日は分からない。しかし今日一日くらいなら経験の浅い連中でも報道部を回せるだろう。最悪別部署から応援を持ってきても良い。やはり今日は帰って休め。そう加賀は黒田に言った。
「…いや、やります。」
「無理するな。」
「…安井さんも三波も居なくなって、ここで京子も離脱となるとちゃんフリは保ちません。自分が踏ん張ります。」
床から身を起こした黒田の目を加賀は黙って見つめた。
「京子のケアは警察でやってもらいます。自分はこのネタをモノにします。」
「モノにするって?」
「デスクは他部署の誰かにお願いします。自分は記者として動きます。」
加賀はあきれ顔で黒田に一瞥をくれた。
「わかった。」
加賀に一礼した黒田は早足でその場から立ち去った。
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「おい。相馬の奴どこに行った。」
周辺の巡回から帰ってきた吉川は傘を畳み、身体についた雨粒を手で払いながら児玉に尋ねた。
「あぁ…少しだけひとりにしてくれってさ。」
「あん?」
吉川の片眉がつり上がった。
「世話になった人がさっき亡くなったんや。」
古田がこう言うと、吉川の表情が曇った。
「しかも事情が事情ときたもんや。」
古田は三波が死んだ経緯を吉川に説明した。
吉川「なるほど…話を聞くかぎり、その三波を殺したのは、その死んでいると思われたウ・ダバのなかのひとりか…。」
古田「ご明察。んで朝戸はいよい