Description
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「おい。あれ。」
吉川が妙なものを見るような声を出したため、相馬と児玉は彼の指す方を見た。
窓の外に自動小銃を小脇に抱えてこちらの方に悠然と歩いてくる男の姿があった。
咄嗟に相馬は本部に照会をとった。
「駅交番から本部。」
「はい本部。」
「音楽堂の方面から鼓門方面に徒歩で移動する、武装した男一名あり。」
「それが椎名賢明だ。」
「椎名は何を?」
「予定より少し早いがウ・ダバをおびき寄せることになった。」
「この状況下でですか?商業ビルの状況もまだ把握できていないのに?」
貸せと言って児玉が相馬から無線トランシーバーを取り上げた。
「本部、本部。こちら駅交番、共同作戦を担当する自衛隊の児玉です。」
「自衛隊?」
自衛隊という単語を無線から聞き、本部の通信員は一瞬ひるんだように感じられた。
「警察の作戦は承知しているが、この状況でウ・ダバを引き込むのは更なる混乱を招く恐れがある。第一椎名の装備がおかしい。」
「装備がおかしいとは?」
「小銃を携行するのは別に問題ないが、背中に背負っているアレはRPGだ。」
「RPG?」
児玉が説明する状況を本部の人間はどうも理解できていないようである。
「意図を持った装備だ。椎名の姿は映画のランボーそのものだ。小銃にはグレネードランチャーまで装着されている。あれは完全に敵側を自分の手で殲滅するための装備だ。誘引するだけの意図のものでない。」
「椎名はテロリスト朝戸に成り代わって、金沢駅に出現する。そのシナリオに沿った行動だとすれば、特段やり過ぎとは思えない。朝戸は制御不能かもしれないが、椎名は制御可能だ。」
「しかし椎名は朝戸とは違う。素人があの手の重武装をしても脅威はない。だが万が一にあれが別の意図を持った武装だとしたら、事態は収拾がつかなくなる。椎名を止めてください。」
このやりとりをしている間に別無線が本部に繋がった。
「古田より本部。」
商業ビルに向かい、無線が途絶していた古田からだった。
「はい本部岡田。古田さん大丈夫ですか?」
「大丈夫や。それよりも厳重に注意しろ。」
この古田の警告に岡田は身体を硬直させた。
「なんですか。」
「武装した朝戸が既に現場に入っとる。」
「え!?」
「商業ビル7階で銃を乱射したのは朝戸慶太や。ワシがこの目で確認したところ、民間人10名と警察官3名殺害。そのほかにも犠牲者は居るかもしれん。」
「そんなに…。」
「現在、この7階にはワシと山県久美子、久美子の勤務先のオーナーの3名や。すぐに安全確保のため、相応の人員を派遣して欲しい。」
「いま機動隊が向かっています。」
「どれだけで到着する?」
間を置かずに現場機動隊がこの古田の問いかけに応答した
「商業ビル班より7階。」
「はい7階。」
「今5階だ。もうすぐ着く。」
「犯人はカラシニコフを所持。相応の武装をしている。7階までは十分に注意して来られたい。」
「了解。」
無線のやりとりを聞いていた片倉から表情が消えていた。
「本部、本部。こちら駅交番、椎名への対応至急求む。」
「本部より駅交番。」
片倉がマイクに口を近づけた。
「はい。駅交番。」
「本部統括の片倉だ。椎名の行動は警察側で承認を得たものだ。ここにきて撤回はない。」
「いまの古田さんの報告でわかったで