Description
3-182-2.mp3
朝戸は商業ビル1階まで降りてきた。
ー藤木さんよ…。あんたやっぱり警察の人間だったんだな…。
偶然が過ぎた。沙希が眠る寺で偶然出会い、宿も偶然一緒。これを縁としてセバストポリとかいう喫茶店で食事し、他愛もない話で世代を超えて盛り上がる。沙希の姿を投影した山県久美子の様子を見て、気を落ち着かせようと彼女の勤務先の近くにいると、ここでもまた偶然、藤木と遭遇。そこでまさにこのコーヒーチェーン店で自分の孤独について吐露した。このコーヒーチェーン店で記憶は消え、気がつくと宿に自分の身があった。どうやら帰路で気を失って倒れていたところを偶然、藤木に助けられたらしい。
ここまでくると偶然とは言いにくい。朝戸は意識して藤木と接点を持っていたわけではない。となるとそうだ。藤木の方が朝戸との接点を意図的に持っていた。そう考えるのが自然だ。
薄々わかっていた。しかしそれを信じたくなかった。だから気づかないふりをしていた。
これが「情愛」か。
藤木との交流を通じて朝戸が知った人間としての温かみ。これまでの孤独に沈んでいた彼にとって、それは何かに似た体験だった。
この感覚は何だ。
わからない。
だが朝戸が藤木を排除できなかった理由はここにあるはずだ。
こういった心の揺れはその奥底で、人間的なつながりに対する希求を無意識に芽生えてさせているのだろうか。
しかし朝戸はまだその情愛を完全に受け入れる準備ができていなかった。
藤木との邂逅は「偶然」ではなく「計画」だった。それがつい先ほど、この藤木と遭遇した事が証明した。このことは彼の警戒心と猜疑心を再燃させた。
すべては監視の下にあった。
幻想だった。
何もかもが。
俺の運命はやはり決まっている。
すべてを破壊し、孤独なまま終わる。
これしかないのだ。
森本「ところで椎名は本当にあの手の武器を使いこなせるんですか。」
ふと警察無線に意識が向いた。6階で藤木と遭遇してからというもの、朝戸はろくに無線のやりとりを記憶していなかった。
ー椎名…。誰だ、椎名って。
岡田「使いこなせなかったら、何のコスプレだ。」
森本「にしても物騒すぎます。」
岡田「貴重な戦力なんだ。今の俺らにとって。SAT同様に。」
現場2「車両、別院通り口検問突破。」
ー車両?検問突破…?
朝戸は大きく息を吸った。そしてゆっくりと吐き出す。
ー俺が鼓門の下に移動する。これが合図のはず。いま、車両が検問突破って言ったよな。
唸るようなエンジン音が遠くに聞こえた。それはこちらの方に近づいてくる。音の方を見ると、鼓門前の道路の先から金沢駅に向かって一台のSUVが走ってきていた。
話が違う。朝戸はそう思った。
ーうん?
速度を落とさずにこちらに突っ込んでくるSUVの姿を、視界から遮るようにひとりの人間が立ちはだかった。
背中にロケットランチャーのようなものを担ぎ、自動小銃を小脇に抱えている。
森本「ところで椎名は本当にあの手の武器を使いこなせるんですか。」
岡田「使いこなせなかったら、何のコスプレだ。」
ーあれが…椎名?
視界から一旦消えたSUVは左に右に蛇行し、そのまま鼓門の一方の柱に大きな音を立てて衝突した。
それを見た朝戸は咄嗟に携帯電話を手にした。
「ほら一番最後にシステムメンテナンス