“小生、長年心血を注いだ教職を辞し今では悠々自適の身。
退職後は家の雑事は勿論の事、地域の付き合いなどにも積極的に参加しているので細君の肩の荷も少しは軽くなったであろうか。
ある日我が家に来客があった。Kである。
Kは親子ほど年齢が離れているにも関わらず、それを感じさせない不思議な雰囲気を纏う青年である。小生が贔屓にしているJAZZ喫茶で働いておりーと云ってもKはただJAZZを聴きに来ているだけの様に見えるがーめっぽう話が弾み、気付けばもう何年も懇意にしている。
「すみません、九官鳥を預かっては頂けませんか」
聞けば今夜、汽車で半日ほどの田舎に帰らなくてはならないという。
細君が「宜しいじゃありませんの。そう長い期間お預かりする訳でなし。」そう云って悪戯っぽく微笑んだが最後ー小生はこの表情にめっぽう弱いのであるー九官鳥を預かる話を勝手に進めてしまった。
九官鳥との生活が始まり驚いたことは「イキ…イキルコ…ト、オツ、オカレサ…デス」
この九官鳥、そんなことを口にするのである。
これには小生も閉口した。九官鳥に労われる心持ちは甚だ複雑である。
そんなある日。
「ゴテ…ン…ラ」
「ジオ」
九官鳥が頻繁にそのような言葉を口にすることに気が付いた。
辞書に当たるもそのような言葉は無い。御殿であろうか。しかし何故御殿なのか。
Kが迎えに来るまで後幾日もある。
ーごてんらじお。
九官鳥がその言葉をはっきりと口にした。
九官鳥は小生をぢっと見ているー。”
南無ノ介 via Apple Podcasts ·
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06/30/23