江川雅子「開講の挨拶」
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統計というのは世界の歴史の中では比較的新しい考え方である。統計は事象を数えることから始まる。サイコロを振ると出る目は1から6であるが、それを何度も振るとき、正確にできたサイコロならば、どの目も6分の1の割合で出ることが期待される。この経験的な法則は、日常生活では統計とは意識されず理解されてきたと思われる。社会における統計の中で人口の統計は基本的なものである。ローマ帝国においても調べられていたが、社会現象を大量観測して法則性を発見し推測が可能になることを示したという意味では、1600年頃にイギリスのグラント(1620-1674)がロンドン市とその周辺の教会の埋葬と洗礼の記録を調べたことに源流がある。イギリスで埋葬と洗礼の記録が行なわれるようになったのは、1600年前後で、ペストの流行の影響を調べるためであったらしい。  現在では統計が現れる場面は非常に多様である。日常生活において、新聞を開いても、テレビを見ても、視聴率、降水確率、合格率、投票率、経済成長率というように、パーセントであらわされた数字が表れる。これは過去のデータの評価のこともあるが、過去から未来を予測しようとする数値でもある。我々が現実をとらえようとするとき、我々は様々な統計を取ることから始めるのである。最近では、科学実験においても、経済や社会の実情の分析においても、巨大なデータを分析し、その意味を探る手法が極めて重要になっている。日常に現れる統計の意味を理解することは、毎日の暮らしにおいても、人生の選択においても必要になっている。 今年2013年は、世界統計年(The International Year of Statistics)とされている。日本のこれまでの教育の中では統計の位置は確定したものではなく、高等学校の指導要領が統計を重視する方向に変わっているところであるが、統計への社会的な理解には不十分な面もあるように思う。  本公開講座では、統計とはどういうものか、最先端の科学はどのようなデータに向き合っているか、我々は様々な数字をどのように理解していけばよいかなどを考えていきたい。