高橋博之の歩くラジオ#266|海苔食べる通信創刊について
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10年間冷凍保管していた海苔も解凍した日が製造年月日になることを知っている消費者はどれだけいるだろうか。みなさんが普段スーパーで買って食べている海苔の多くはこれだ。知っているようで知らない海苔の世界。そこで今、何が起きているのか。海苔のこと、漁師のこと、海のことを伝える『海苔食べる通信』創刊について、歩きながら1時間、独演する。 我が家には毎年、年末になると有明海の海苔漁師さんから、その年の一番摘みの海苔が、直筆の手紙と共に送られてくる。そこには、その年の海の様子、海苔の状態などが綴られている。年々、海苔漁師が置かれている環境が厳しさを増していることが伝わってくる内容だ。7歳になる息子は、2歳のころから毎年この海苔を食べて育ったので、スーパーで売っている海苔は美味しくないと箸がすすまなくなる。 おにぎりを筆頭に、日本の食文化に欠かせない海苔について、私たちはそもそもどれだけ知っているだろう。海苔がどんどん採れなくなっていることをどれだけの日本人が知っているだろうか。 海苔の生産枚数はピーク時の2001年から徐々に減少傾向にあり、2019年には46年ぶりの大凶作で市場が高騰し、業界に激震が走った。その後、コロナ禍に突入。昨年の緊急事態宣言後は、コンビニの来店客が激減し、オニギリが売れず、海苔の納入量も大幅減に転じ、相場の下げ圧力が大きくのしかかったが、いずれにせよ、海苔の生産量の減少傾向は今後も続いていくという見方が一般的だ。 なぜ、海苔は採れなくなっているのだろうか。原因は、暖冬による高水温、山の荒廃、問屋の在庫不足などが指摘されている。戦争で大量の木材が軍需物資として消えた日本は戦後、国策として成長の早いスギの造林が全国各地で進められた。40〜50年で伐採適齢期を迎えたときには、輸入木材の普及でスギの価格が大幅に下落し、採算が悪化したために放置されてきた。結果、山は荒れ果て、海に運ばれる養分が減り、海苔の生産量が減少していると指摘されている。海苔漁師は7000人から3000人に減ったが、収入が減って食えなくなったのではなく、そもそも海苔をつくれなくなったのだ。 2019年の大凶作に伴う海苔相場の高騰。海苔の生産量が20年間減少傾向にあったところにトドメを刺したのが、問屋のストック不足だった。安く仕入れて安定供給するために、問屋は海苔を冷凍備蓄してきた。市場の需給バランスに応じて、海苔を解凍し、販売してきたのだ。10年間冷凍保管していた海苔も解凍した日が製造年月日になることを知っている消費者はどれだけいるだろうか。その海苔のストックが長年の生産量減少でついに切れてしまったことが大凶作と言われている事態の背景にあると見られる。今後も海苔不足は続き、そこを補うのは、化学品まみれの韓国産と中国産になる(海苔のように加工度が高いと原産地表示が不要)。事実、輸入は年々増えている。 宮城県東松島の海苔漁師、相澤太さんは言う。 「そもそも生き物である海苔は工業製品ではない。自然には何一つ同じものはない。去年と違って当たり前だし、その時々で微妙に変わるからこそ二度と味わえない唯一無二の味となる。消費者と顔が見える関係性があるとその価値を理解してもらえるが、消費者との関係性がない市場は
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岡山県西粟倉村で、Iターン移住者、Uターン・関係人口など多様な人々に地域に関わってもらうまちづくりに取り組んでいる大井健史さんをゲストにお招きし、歩きながら1時間、対談する。 大井健史(おおいたけふみ)/1995年生まれ、北海道札幌市出身。筑波大学国際総合学類卒。大学1年生の夏に政治家の下でのインターンシップを経験したことがきっかけで、まちづくりに関心を持つ。卒業後は、株式会社リクルートキャリア(現:株式会社リクルート)に入社。関西圏で求人広告の法人営業を担当。 2019年より岡山県西粟倉村に移住し、エーゼロ株式会社に入社。地域に新たな市場や経済を創出する事業の発掘・育成を目的とした...
Published 04/21/23
男と女、日本人と外国人、若者と高齢者、健常者と障害者、生と死など、あらゆるところにひかれる境界線を飛び越え、あらゆるひとが混じり合い、介護や医療、教育、まちづくりについて考えるきっかけとなる場づくりをしている福祉環境設計士の藤岡聡子さんをゲストにお招きし、歩きながら1時間、対談する。 藤岡聡子/福祉環境設計士。(株)ReDo代表取締役。1985年徳島県生まれ、三重県育ち。長野県軽井沢町在住。夜間定時制高校出身。 人材教育会社を経て2010年、24才で介護ベンチャー創業メンバーとして有料老人ホーム創業。「なんで老人ホームには老人しかいないの?」を元に、アーティスト、大学生や子どもたちと...
Published 04/19/23