Description
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すれ違う者皆がこちらを見る。一体何事かといった表情で見るものもあれば、律儀に敬礼をして道を譲る者もいる。彼はエレベーターの降りるボタンを忙しなく押してそれが来るのを待った。しかし5秒後には踵を返して階段へと足を進めていた。彼は階段を降りるというより落ちるように凄まじい勢いでそれを駆け降りた。そこに携帯電話の音がなった。彼はそのまま階段を降りながらそれに出た。
「おうトシさん。」
「お前どこや。」
「階段。」
「はぁ?お前ふざけんなや。」
「って言うかトシさんやべぇわ。」
「どいや。」
「村上や。」
「はぁ。」
階段を降り切ったところで片倉は携帯電話を耳にあてている古田と出くわした。古田は手にしていたものを懐にしまった。
「とにかくやべぇ。トシさん。やべぇことになった。」
「何が?」
「これ見てくれま。」
片倉は一枚の写真を古田に手渡した。
「なんやこの車は。」
「村上の車や。」
「村上の?」
「ほうや。ほんで…。」
片倉は自分の携帯電話を操作して、その中にある一枚の写真を古田に見せた。
「あ。」
「一緒やろ。」
「ナンバーも同じやがいや。」
「ほんでこれや。」
そう言って片倉はもう一枚の写真を表示させた。
「誰やこれは?」
「アサフスから出てきたんや。トシさんこの女のこと知っとるか。」
「いや…。アサフスって、ワシら昼にもあそこに行っとったがいや。そん時にはこんな女おらんかったけどなぁ。」
「この女が誰かってのは気になるところやけど、それ以上にひっかかかることがあるんや。」
「何や。」
「村上の車がこの女を乗せて走り去って行った。」
「何?」
「この女、アサフスを出てバス停でバスを待っとった。そこにこの車が横付けした。」
「女と村上、知り合いねんろいや。」
「それがな、どうももともと知っとる風じゃねぇげんて。」
「と言うと?」
「知り合いが迎えに来たとかやったら「ありがとー」みたいに親しげな感じだすやろ。」
「おう。」
「ところがなんか女は困った感じのリアクションをしとってな、遠くから見とったから正確かどうかわからんけど、車に向かって頭下げたりして何か拒んどる感じやったんや。」
「喧嘩でもしたか?」
「いや。ただ突き放す感じで拒否るっつうんじゃなくて、なんか気ぃ遣うみたいに。」
「ほう。」
「でも押し切られたんか、女は結局載せられて車は北の方角に走っていった。」
古田の表情が険しくなった。
「まさか…拉致…。」
「おう…気の揉みすぎならいいんやけど。」
「ほうか、ほんで車が気になってここに来て調べてみると、検問に引っかかった村上の車とおんなじ車やったってことやってんな。」
片倉は頷いた。
「なんか俺嫌な予感がすれんて。」
ここで無線から音が聞こえた。
「岡田や。」
「どうした。」
「佐竹が動きました。今あいつをつけています。」
「わかった。ちなみに佐竹の様子に変わったところはねぇか。」
「なんかよく分かりませんが、ちょっと落ち着きがない感じです。」
「落ち着きがない?」
「ええ。」
「本多が自殺したからか?」
「わかりません。随分と乱暴な運転ですよ。」
「どこに向かっている。」
「わかりません。しかし金沢銀行本店方